マルチブランド戦略とは?複数ブランド展開の目的・メリット・成功事例を解説
市場が多様化し顧客のニーズが細かく分かれるなかで、一つのブランドだけでは戦略的に限界が生じつつあります。そこで、多くの企業が採用しているのが「マルチブランド戦略」です。
本記事では、マルチブランド戦略の目的やメリット・デメリットをわかりやすく解説します。また、実際の企業事例や他の戦略との違いについても解説するので、ぜひ自社のブランド戦略立案に役立ててください。
マルチブランド戦略とは
マルチブランド戦略とは、同じカテゴリーで複数のブランドを展開し、市場占有率拡大や多様な顧客ニーズへの対応を図る手法です。まずは、マルチブランド戦略について目的や市場背景を深掘りしていきましょう。
マルチブランド戦略の定義と目的
一つの企業が、同一または隣接するカテゴリーにおいて、異なるコンセプトや価格帯を持つ複数のブランドを展開する戦略を「マルチブランド戦略」といいます。顧客層ごとに適した価値提案を行えるため、市場全体でのシェア拡大や競争優位の構築につながります。
単一ブランドでは捉えきれない多様なニーズを取り込むことが主な目的です。
マルチブランド戦略が増えている市場背景
マルチブランド戦略が広がる要因として、以下のような市場背景が挙げられます。
- 顧客の価値観やライフスタイルが細分化し、従来よりも多様なニーズが形成されている
- オンラインや実店舗など購買チャネルが多様化している
また、技術や流通の進化によって新規参入が容易になり、競争が激化したことも一つの要因です。こうした環境の中で「一つのブランドだけでは変化に対応しきれない」という企業側の課題認識が強まり、マルチブランド戦略へのシフトが加速しています。
マルチブランド戦略の5大メリット

マルチブランド戦略には、市場シェア拡大や競合抑止など、企業成長を後押しする5つの大きなメリットがあります。詳しく見ていきましょう。
市場占有率の拡大
複数のブランドを同一市場内で展開することで、異なるポジションを同時に確保できる点がマルチブランド戦略の大きなメリットです。価格帯やコンセプトの異なるブランドを並行して扱うことで、単一ブランドでは取りこぼしていた層にもリーチでき、市場シェアを拡大しやすくなります。ブランドの幅を持たせるほど、市場全体での存在感を強化できます。
競合参入の抑止力
複数ブランドによって市場の主要ポジションを押さえることで、競合他社が新たに参入しようとしても、差別化の余地が小さくなり参入障壁が高まります。結果として、市場の主導権を握りやすくなり、価格競争やポジション争いでも有利な立場を確保できるのが利点です。
自社のブランドポートフォリオが厚いほど、業界内での優位性が確立しやすくなります。
幅広い客層を獲得
ブランドごとにターゲット層や提供価値を変えることで、多様なニーズを持つ顧客へ効果的にアプローチできるのもマルチブランド戦略のメリットです。
「若年層向け」「プレミアム志向の層向け」など、異なるブランドがそれぞれの市場をカバーするため、顧客基盤の拡大につながります。また、長期的にはLTV(顧客生涯価値)の向上も見込め、ビジネス全体の収益性を高められます。
ブランド間のリスク分散
市場環境の変化や顧客ニーズの移り変わりが起きても、複数ブランドを保有していれば影響を分散できます。特定ブランドの不振が企業全体へ直結しにくいため、事業の安定性を確保しやすい点がメリットです。
また、新たな市場機会を見つけやすく、ブランドごとの実験的な施策にも柔軟に取り組めるため、長期的な経営リスクの低減にもつながります。
市場全体の活性化
多角的な発信が市場成長を促進する点も、マルチブランド戦略の利点です。
複数ブランドから継続的に情報発信されることで、消費者の接点や話題が増え、カテゴリー全体が活性化します。自社ブランドへの注目度が上がるだけでなく、市場全体が盛り上がることでトレンドが生まれやすくなり、結果としてマーケットサイズの拡大も期待できます。
マルチブランド戦略のデメリット・注意点
マルチブランド戦略には多くの利点がある一方で、いくつかのリスクや注意点も存在します。採用を検討する際は、事前にどのようなデメリットがあるのかも把握しておきましょう。
カニバリゼーション(ブランド間競合)のリスク
ブランド同士のターゲットやポジションが重なると、消費者がどれを選ぶべきか判断しにくくなり、結果として自社ブランド同士が競合する『カニバリゼーション』が生じます。この場合、市場全体のシェアは変わらないまま、ブランド同士でシェアを奪い合う状況に陥りかねません。
カニバリゼーションを避けるためにも、マルチブランド戦略を採用する際にはターゲットや価格帯の重複を適切に管理し、役割を明確にすることが不可欠です。
予算の分散・管理コストの増加
ブランド数が増えるほどマーケティング予算は分散し、広告費・商品開発費・在庫管理・人材育成などの運用コストも比例して増大します。その結果、どのブランドにも十分な投資が行き届かないリスクが高まるため、「限られたリソースをどのブランドにどの程度投資するのか」優先順位をつけなければなりません。
また、ポートフォリオ全体を俯瞰し、最適な配分と効率的なマネジメントを行う仕組みづくりも求められます。
ブランドアイデンティティの希薄化
安易にブランドを増やし続けると、企業全体として「何を価値提供の核にしているのか」が伝わりにくくなり、ブランドアイデンティティが揺らぎやすくなります。
各ブランドの違いがわかりにくくなると、消費者の選択理由が弱まり、ブランド価値の低下にもつながりかねません。そのため、明確なブランドガイドラインの設計や、ブランド間の役割の整理を徹底し、一貫した価値表現を維持することが大切です。
成功事例で学ぶマルチブランド戦略3選
ここでは、実際の企業事例を通じて、マルチブランド戦略がどのように機能し成果を生み出しているのかを解説します。
食品・飲料業界の事例
食品・飲料業界からは、日本コカ・コーラが行っているマルチブランド戦略の成功事例を紹介します。
飲料市場は嗜好や飲用シーンの多様化が激しく、単一ブランドですべてをカバーすることは困難です。そこで日本コカ・コーラは、用途や価値観に合わせてブランドを明確に棲み分け、強固なポートフォリオを構築しています。
具体的には、以下のようなブランドが挙げられます。
- コカ・コーラ(炭酸・爽快感)
- ファンタ(フレーバー・若年層)
- アクエリアス(スポーツ・水分補給)
- い・ろ・は・す(ナチュラルウォーター)
このように多様な接点を抑えることで、どのような飲用ニーズが生じても自社ブランドが候補になるような構造を実現しています。
化粧品・日用品の事例
化粧品・日用品の分野で典型的なマルチブランド戦略を展開する企業の一つがP&Gです。P&Gは、シャンプー・洗濯洗剤・スキンケアなど、同一カテゴリー内でも複数ブランドを意図的に並立させ、顧客が重視するメリットごとにブランドを配置しています。
例えば、洗濯洗剤では「洗浄力」「香り」などの価値軸ごとに異なるブランドを展開し、カテゴリー内の多様なニーズを自社でカバーしています。ブランド同士をあえて競合させる一方で、他社が入り込む余地を小さくし、市場の主導権を維持する構造を築いているのがP&Gの特徴です。
アパレル・小売業界の事例
アパレル・小売業界からは、ファーストリテイリングの成功事例を紹介します。
アパレル業界は価値観やトレンドの変化が早く、ブランドの世界観を明確に分けることが競争力の源になります。そこでファーストリテイリングは、ユニクロとGUを完全に別ブランドとして運営することで、価格帯・ファッション性・価値観の軸で顧客層を棲み分けました。
「LifeWear」理念に基づき、高品質で日常に寄り添うベーシックウェアを提供している『ユニクロ』に対し、トレンド性と手頃な価格を武器に、若年層中心の支持を獲得しているのが『GU』です。
ブランドの世界観を分け顧客層を棲み分けつつも、製造・物流などバックエンドを共通化することで、コスト効率とブランド独自性の両立にも成功しています。
マルチブランド戦略と他ブランド戦略との違い
マルチブランド戦略は、「アンブレラブランド」「ブランド拡張」「ライン拡張」など他の戦略と異なる特徴を持ちます。ここでは、それぞれの戦略との違いを整理しましょう。
アンブレラブランド戦略との違い
アンブレラブランド戦略は、親ブランドの信用やイメージを活かして新商品や新カテゴリーを展開する手法です。
複数ブランドを独立して運営し、それぞれ異なるターゲットやポジションで市場をカバーするマルチブランド戦略とは違い、ブランドは分散せずに親ブランドの下に集中させる形となります。
ブランド拡張戦略との違い
ブランド拡張戦略は、すでに確立されたブランドの認知や信頼、世界観を軸に、新たな製品やサービス、さらには異なるカテゴリーへ展開して事業を拡大する手法を指します。
マルチブランド戦略のように複数の独立ブランドを展開するのとは異なり、既存ブランドの価値を活かす点が特徴です。ブランド拡張戦略では、ブランドを分散させず、一貫したイメージのまま市場を広げられます。
ライン拡張戦略との違い
ライン拡張戦略は、既存ブランドの枠内で同一カテゴリーの商品やサービスを増やす戦略です。例えば、「新サイズ」「新フレーバー」「新機能」などで既存顧客のニーズに応えます。
マルチブランド戦略とは異なり、ブランド名や世界観は変えずに商品バリエーションを広げるため、ターゲットの幅はブランド内で補完されるのが特徴です。
マルチブランド戦略に分析が欠かせない5つの理由
マルチブランド戦略では、成功のために市場やブランドを多角的に分析することが不可欠です。具体的にどのような分析が必要なのか、詳しく解説します。
ポジショニングの明確化
マルチブランド戦略では、まず「市場の何を軸にブランドを分けるか」を整理しなければなりません。以下のような軸ごとに配置することで、各ブランドの立ち位置が明確になります。
- 年齢
- 価値観
- 価格帯
- 機能
- 利用シーン
ポジションが明確なブランドほど広告や訴求も一貫性を保てるため、消費者に伝わりやすく、ブランド力の最大化につながります。
ポジショニングを明確にするためには、STP分析のフレームワークが役立ちます。詳しくは、「STP分析におけるセグメンテーションとは?意味や分析方法・成功事例を解説 」もご覧ください。
市場の隙間(ニッチセグメント)の発見
市場全体を俯瞰して分析することで、まだ自社がカバーできていない顧客層を発見できます。こうした隙間を特定することは、マルチブランド戦略の大きな意義の一つです。
競合が少ない領域でブランドを展開すれば、優位に市場シェアを獲得でき、効率的に投資効果を高めることが可能になります。
ブランド競合のリスク
マルチブランド戦略で注意すべき典型的な失敗が『カニバリゼーション』です。ターゲットや価値軸の差別化が不十分だと、ブランド同士が競合して売上を奪い合う事態が発生します。
そのため、ポジションマップ作成や市場調査などで事前検証し、ブランド間の役割と差別化を明確にすることが不可欠です。
存在意義の検証
新ブランドや既存ブランドの存在価値は、調査データに基づく裏付けがあって初めて明確になります。消費者の支持や市場機会をデータで示すことで、投資判断や採算性の評価、経営陣やブランド担当者への説明材料としても活用できます。
このような根拠のあるブランド戦略は、長期的な安定運用に不可欠です。
管理の重要性
ブランドを増やすだけでは価値を最大化できず、むしろ管理の方が難しくなってしまうケースも少なくありません。複数ブランドをポートフォリオ型で設計し、各ブランドの役割やリソース配分を明確にすることが重要です。
分析によってブランドごとの位置づけや成果を把握し、適切な管理体制を整えましょう。
マルチブランド戦略の立案・実行4ステップ

ここでは、マルチブランド戦略の立案から実行までの4ステップを解説します。
1.ターゲット設定・セグメント分析
まずは、「誰に向けたブランドか」を明確化することが出発点です。価格・機能・年齢・世界観など市場の価値軸を整理し、購買データやインサイト調査を活用して意思決定基準を可視化しましょう。
データに基づくセグメント分析によりブランドの役割や差別化ポイントが明確になり、「誰のために存在するブランドか」を言語化できます。
2.ブランドポジショニング設計
ブランドが「どの位置」で戦うのかを決め、競合や自社ブランドとの棲み分けを明確にします。各ブランドに「収益の柱」や「成長のドライバー」などの役割を割り当て、カニバリゼーションを防ぎましょう。
ブランドは単体ではなく集合体として管理し、「増やす発想」ではなく「市場の隙間を埋める発想」で設計することが戦略成功の鍵となります。
3.ブランドポートフォリオ管理
マルチブランド戦略では、複数ブランドの相関関係を定期的に診断し、ポートフォリオ全体を管理することが重要です。ブランドごとの位置関係を把握し、統合・撤退・縮小などの対応を判断します。
4.KPI設計・運用体制の構築
マルチブランド戦略では、成果と課題を測るKPIを設定し、意思決定と改善の仕組みを明確にすることが重要です。「誰が判断し、いつ改善するか」を運用体制として定め、検証と改善を繰り返すことでブランドを戦略的に育てられます。
また、社内だけの判断に頼らず、消費者調査や市場調査といった第三者視点のリサーチを組み合わせることで、意思決定の精度と社内の納得感を高めることも大切です。
まとめ|マルチブランド戦略とは市場の声を根拠に判断する経営戦略
マルチブランド戦略は、複数ブランドを独立させ市場の隙間や多様な顧客ニーズを狙う経営手法です。成功には、データに基づくターゲット設定やポジショニング、ポートフォリオ管理などが不可欠です。
また、市場の声を根拠に意思決定することが、戦略的にブランドを育て、持続的な成長を実現することにつながります。まずは、分析と管理の仕組みづくりから始めてみてください。