余った予算で多変量解析を追加したい。因子分析・クラスター分析の設問とサンプルサイズはどう設計する?
マーケターやリサーチャーの気になるお悩みに現役プロフェッショナルが回答する「リサーチャーのお悩み相談室」。今回は、単純集計・クロス集計を想定したn=400・15問の満足度調査に、多変量解析(因子分析・クラスター分析)を追加するときの設問・サンプル設計について、GMOリサーチ&AIの工藤 公久が解説します。
結論は、「設問は変える必要があり、サンプルはタイプ別比較の最小人数から確認が必要」です。
- 相談内容:満足度調査(n=400・15問)の設計を変えずに、因子分析とクラスター分析を追加できるか?
- 設問:既存の評価設問だけでは足りず、価値観・購買スタイルの設問を軸ごとに3〜4問追加する必要がある。既存の評価設問は結果を測る設問として活かす
- サンプル:因子分析ならn=400で十分。ただしタイプ別に比べる場合は、最小のタイプの人数(例:全体の15%で100人ほしいなら約670人)から必要数を逆算する
- 工藤 公久
※お悩み相談室の相談内容は、GMOリサーチ&AIや提携会社へ寄せられたご相談を元に作成しています。
質問:満足度調査(n=400・15問)の設計を変えずに、多変量解析を追加できますか
下期の予算が余っており、上長から「予算を余らせるくらいなら、普段できない分析までしよう」と言われ、単純集計とクロス集計だけを想定していたアドホック調査に、多変量解析(因子分析とクラスター分析)を追加することになりました。
調査票は価格面の満足度・使いやすさ・サポート対応・ブランド好感度など、5段階評価の設問を15問、サンプルはn=400で発注予定です。設問とサンプル数を変えずに因子分析やクラスター分析までたどり着けるのか、何を直せばよいのかが分かりません。
回答:まずは「多変量解析が本当に必要か」を確認しましょう
設問を増やす前に、「この調査で何を決めたいのか」を確認することが重要です。多変量解析は、単純集計・クロス集計よりも設問の作り込みとサンプルサイズの確保に手間がかかるためです。
「価値観のタイプ別に施策を変えたいのか」など、今回の調査でどんな意思決定をしたいかを設問を直す前に上長と言語化しておくと判断しやすくなります。
多変量解析とは
多変量解析とは、複数の変数(質問項目など)に関するデータをもとに、変数どうしの関係を同時に分析する統計手法の総称です。特定の1つの手法を指す言葉ではなく、因子分析・クラスター分析・重回帰分析などが含まれます。単純集計・クロス集計が項目を1〜2つずつ見るのに対し、多数の項目をまとめて要約したり、回答者を分類したりできるのが特徴です。
多変量解析が必要な場合
- 属性では説明できない「隠れた顧客タイプ」を発見したい(例:新商品のターゲット選定で、年代や性別では捉えきれない「直感先行型」「慎重吟味型」を見つけたい)
- 価値観の異なる「タイプごと」に施策を変えたい など
クロス集計で十分な場合
- 年代別・性別の満足度の差を数値化したい
- 属性別の違いは既に分かっており、裏付けとなる数値が欲しい など

因子分析とクラスター分析の目的を理解する
因子分析とクラスター分析は「変数が多いデータを整理する手法」という点は共通していますが、目的は別です。いずれも手間がかかるからこそ、何のために使うのかを先に理解したうえで設計しましょう。
因子分析とは
因子分析とは、多数の質問項目への回答の背後にある共通の要因(因子=「軸」)を見つけ、少数の軸に要約する統計手法です。「新しいもの好き」のように直接は聞きにくい価値観や購買スタイルを、複数の設問の回答パターンから捉えるときに使います。結果として、回答者ごとの軸の得点(因子得点)が得られます。
データから軸を探す「探索的」な使い方と、あらかじめ想定した軸がデータに合うかを確かめる「確認的」な使い方があり、実務ではどちらも使われます。今回は、調査票を作る段階で軸を仮決めし、その軸ごとに設問を作るとスムーズですので、後者に近い形で進められます。
クラスター分析とは
クラスター分析とは、回答の傾向が似ている回答者同士をまとめ、回答者そのものをいくつかのグループ(クラスター=「タイプ」)に分類する統計手法です。属性では捉えきれない価値観や行動の違いによる顧客タイプを見つけたいときに使います。結果として、各回答者がどのタイプに属するかが得られ、タイプ別に評価や意向を比べられます。
今回は、因子分析で作った軸の得点を使って、クラスター分析で回答者をタイプに分ける方法がスムーズだと思います。
多変量解析に必要な設問設計とは
設問は「出したいアウトプット」から逆算してつくる
設問を先に足すのではなく、最終的に出したいアウトプットから逆算します。
- ゴールを明確にする:例)価値観のタイプ別に、訴求や施策を変える
- 必要なアウトプットを明確にする:例)タイプ別の継続利用意向・満足度の比較
- 必要な軸を特定する:タイプを分けるための価値観・購買スタイルの軸を仮決めする
- 軸を測る設問を作る:各軸につき、言い回しを変えた3〜4問以上を書き起こす
軸を先に仮決めすることで、各軸に必要な設問数が決まります。設問を増やしてから軸を考えると、タイプを分けても施策に繋がりにくくなります。
既存の評価設問は「結果を測る設問」として活かす
既存の評価設問や総合満足度・継続利用意向は、因子分析にもクラスター分析の分類にもかけません。タイプが分かれたあとにタイプ別で比べ、施策の優先順位づけに使います。
一方、既存の設問だけではタイプ分けができないため、価値観・購買スタイルを測る設問を新設します。因子分析にかけるには、軸の数の3〜4倍以上の項目を用意するのが一般的な目安で、同じ軸を視点を変えた表現で複数項目にして測ります。回答は5段階の同意度で聞きます。
新設する設問文の例
| 軸 | 設問1 | 設問2 | 設問3 |
|---|---|---|---|
| 新しいもの好き | 新しい商品やサービスが出ると、早く試してみたくなる | 最新技術を使ったサービスには興味がそそられる | 流行りのツールをいち早く取り入れたい |
| じっくり比較検討 | 購入前に、複数の商品やサービスをよく比較する | 導入前に十分な検討期間を取ることが重要だと思う | 新しいツールを導入するときは、詳しい人に相談することが多い |
| 周囲の評価を気にする | 購入するとき、周りの人にどう思われるかが気になる | 他社で使われているサービスを自分たちも使いたくなる | 業界の有名企業が採用しているツールを信頼する |
実際の軸は商材に合わせて選びます。評価設問と同じテーマ(価格・使いやすさなど)の「重視度」は評価の裏返しになりやすいため、別の視点の軸を選びましょう。
多変量解析のサンプルサイズの考え方
因子分析に必要なサンプルサイズ
因子分析は、一般に「追加項目数の5〜10倍、最低n=100程度」が目安です。倍率はあくまで目安で、追加項目が10問前後なら、n=100〜200程度で足りるため、n=400は十分です。
クラスター分析に必要なサンプルサイズ
クラスターの数をあらかじめ指定して分ける非階層的な方法は回答者数が多い場合に、似たケースを順に結合していく階層的な方法は回答者数が少なく一人ひとりの所属先を見たい場合に向きます。n=400程度なら非階層的な方法が自然です。
タイプ別に比べる場合は、もっとも人数の少ないタイプの「厚み」に注意が必要です。必要なサンプルサイズは、最小のタイプで確保したい人数を、そのタイプの想定構成比で割って見積もれます。
n=400のままだと、最小のタイプはおよそ60人で、標本誤差は±13ポイント程度(100人なら±10ポイント程度)になります。n=400で進める場合は、タイプの数を3つ程度に抑えるか、タイプ別比較は「大まかな傾向」をつかむ程度にとどめるのが無難です。
調査会社に相談する際の注意点
設問を増やしたりサンプルを追加したりすると、費用・回答者の負担・納期が変わる場合があります。設問や軸に迷ったときは、設問を確定する前に調査会社の分析担当者へラフな集計イメージを見せ、分析の範囲や報告の形式とあわせて設計の段階で確認しておきましょう。
まとめ:余った予算で多変量解析を実施するための確認項目
- 意思決定の明確化:「この調査で何を決めるのか」が上長と言語化されているか
- 軸の選定:顧客の価値観を代表する3〜4つの軸が決まっているか
- 設問数の確認:軸ごとに3〜4項目以上、合計10問前後が追加できるか
- サンプル数の判定:最小のタイプで確保したい人数÷想定構成比から必要数を確認したか
- 調査会社への相談:設問追加による費用・回答者の負担・納期、分析の範囲や報告の形式を確認したか。迷ったときは、設問確定前にラフな集計イメージを分析担当者へ見せ、過不足を確認してもらうのも一つの方法
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