3年ごとの見直しルールで調査会社を変えることになり、過去データと比較できるか不安です

3年ごとの見直しルールで調査会社を変えることになり、過去データと比較できるか不安です
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マーケターやリサーチャーの気になるお悩みに現役リサーチャーが回答する「リサーチお悩み相談室」。今回は調査会社の乗り換え、いわゆる「ベンダー見直し」についてです。

回答したエキスパート
    工藤 公久
  • GMOリサーチ&AI株式会社 リサーチオペレーション部 エキスパート。製薬会社、マーケティングリサーチ会社勤務を経て2010年にGMOリサーチ株式会社(現GMOリサーチ&AI株式会社)に入社。これまでにオンライン定量調査やインタビュー調査といった従来型の調査手法以外にも、アイトラッキング調査、表情解析調査など先進的なリサーチ手法の開発・運用にも携わるなど幅広く活動してきた。

質問:見積もりは2割安いのですが、5年続けた推移グラフが心配です

年1回のブランドイメージ調査を、同じ調査会社に5年続けて委託しています。調査票は初年度からほぼ変えておらず、対象は全国の20〜59歳男女、回収数は1,000、設問数は40問ほどです。この5年分の推移を毎年経営会議で報告しています。

今年から社内の調達ルールが変わり、3年以上続いている取引は相見積もりを取って見直す方針になりました。声をかけた別の調査会社の見積もりは、現在より2割ほど安く出ています。金額だけ見れば乗り換えたほうがよさそうですが、調査会社が変わることで数字が動いてしまい、これまでの推移と比較できなくなるのではないかと不安です。乗り換えを決める前に、何を確認しておくべきでしょうか。

回答:乗り換えでは「調査票以外の条件」がまとめて変わると考えましょう

調査会社を乗り換えるとき、調査票の中身は変わりません。それでも数字が動きうるのは、調査票の外側にある条件がまとめて入れ替わるからです。まずここを押さえておくことをおすすめします。

ネットリサーチでは、回収したままの集団の構成が母集団の構成と一致するとは限りません。NIRA総合研究開発機構が2025年3月に公表した「NIRA基本調査2024」では、大卒以上の人の割合が、国勢調査では20%台半ばであるのに対し、同機構が2023年と2024年に実施したインターネット調査ではいずれも40%を超えていたと報告されています[1]。この差は特定の調査会社の問題ではなく、インターネット調査という手法に共通して見られるものです。だからこそ、どの調査でも割付やウェイトバックといった工程で構成を整えたうえで数字を出します。

回収したままの集団の構成が母集団の構成と一致するとは限らない

そして、その整え方は各社が固定で持っているものではなく、調査ごとに決める仕様です。標本サイズや抽出法、標本設計、ウェイトバックといった処理は、受注前に企画書で取り決める事項として挙げられています[2]。同じ調査票でも、割付の置き方やウェイト設計が変われば、出てくる数字は変わりえます。

乗り換えでは、回答するモニタが入れ替わり、その集団を整える仕様も新しい委託先の設計に置き換わります。推移が動くこと自体を避けられないのであれば、「動くかもしれない」と分かった状態で乗り換えるほうが、社内での説明はしやすくなります

価格差よりも、仕様の違いに注意する

見積もりの差は、単価そのものの差というより、どういう条件で見積もっているかの違いとして表れることがあります。2割という数字を評価する前に、両社が同じ仕様を前提にしているかを確認しておくと、比較の意味が変わってきます。

日本マーケティング・リサーチ協会の「調査マネージメント・ガイドライン」では、受注前に企画書で確認すべき事項として、調査目的、調査対象者の定義と地域・標本サイズ・抽出法、標本設計、調査手法、日程、ウェイトバックや多変量解析などの特殊処理、納品物の内容、プロジェクト責任者、実査やデータ処理を外部委託する予定の有無、そして抽出数・回収数・有効サンプル数・不能内訳の報告仕様が挙げられています[2]

相見積もりで条件をそろえるチェック項目

この項目は、そのまま相見積もりの比較軸として使えます。安いほうの見積もりで、割付が人口構成比から均等割付に変わっていないか、ウェイトバックが外れていないか、自由記述のアフターコーディングや報告書作成が範囲外になっていないか、回収数の報告仕様が同じかを見ていきます。ここで違いが見つかった場合、それは値引きではなく、成果物の中身が変わるという話になります。とくに割付とウェイトバックは、前の年までの数字との比較にそのまま影響する部分です。

条件をそろえたうえで、なお差が残るのであれば、そこが本来比べるべき価格差だと考えられます。

外部委託の有無も、乗り換えのときには見ておく価値があります。実査やパネル提供を別の会社に委託している場合、依頼先を変えても実際に回答する集団が大きく変わらないこともありますし、逆に社名から想像していた集団と違うこともあります。どこまでを自社で行い、どこから先を委託しているのかは、条件のひとつとして聞いておくとよいでしょう。あわせて、パネルの構築方法、登録時の本人確認の方法、同一人物の重複登録を防ぐ仕組み、回答データのチェック工程を各社に同じ聞き方で確認しておくと、見積もりの条件と同じ土俵で並べられます。

過去の記録は「1年で廃棄されうる」前提で引き継ぐ

乗り換えの実務でもっとも取り返しがつきにくいのが、過去の記録の引き継ぎです。

同じ「調査マネージメント・ガイドライン」では、提案資料、記入済み調査票、サンプリング資料、チェック仕様書、修正記録、集計結果表、電子データ、報告書、インスペクションおよび実査記録といった記録について、マーケティング・リサーチ綱領の第22条に規定されている期間(1年間)は完全に保管されていることを保証しなければならないとされています。そのうえで、綱領の規定を超える期間の保管についてクライアントと特に取り決めをしていない場合に限り、1年が経過した後の廃棄が可能とされています[3]

つまり、長期の保管を契約で取り決めていなければ、5年前のローデータや調査票が今も残っているとは限りません。乗り換えを検討し始めた時点で、過去のローデータ、調査票の最終版、集計仕様、ウェイト設計、回収記録を自社側に移しておくと、新しい調査会社に前提を引き継ぐときにも、過去の数字を再集計したいときにも使えます。契約が終わってから依頼すると、対応してもらえない場合があります。

数字の断絶は、隠さずに設計する

継続性を重んじる調査では、変更そのものを慎重に扱います。NHK放送文化研究所が1960年から5年ごとに実施している「国民生活時間調査」について、渡辺洋子氏・吉藤昌代氏は、調査に継続性があり時系列でデータを比較できることがこの調査の大きな特徴であるため、これまで調査票の変更を最小限にとどめてきたと述べています。そのうえでメディア利用の多様化により対応できない部分が生じたため、グループインタビューで課題を洗い出し、2018年10月に別の調査を実施して調査票の課題を再確認したうえで、2020年調査の調査票を修正する方針を示していました[4]

変更する前に検証の機会を挟むという進め方は、調査会社の乗り換えにも当てはめられます。乗り換えの初年度に、主要指標だけでも旧社と新社の両方で並行して聞いておけば、差が出た場合にその差が実態の変化なのか、調査会社の違いによるものなのかを切り分けられます。一部の設問に絞れば費用は抑えられますし、値下がりした分の一部を検証に充てるという考え方もできます。

並行実施が難しい場合は、推移グラフに「この年から調査会社を変更」という注記を残しておくだけでも、社内の読み手が数字を誤って解釈するリスクは下げられます。あわせて、調査票、対象者条件、割付、実施時期、ウェイト設計は乗り換えの年には変えないでおくと、変わった要素を1つに絞れます。

調査会社を乗り換える年にやっておきたいこと

「乗り換えない」も見直しの結論になりうる

ここまで乗り換える前提で書いてきましたが、相見積もりの目的は取引条件が妥当かどうかを確かめることであり、結論が変更に限られるわけではありません。条件をそろえた結果、2割の差の多くが仕様の違いによるものだったのであれば、価格を理由に変える根拠は弱くなります。

継続性そのものにも価値があります。先に触れた「国民生活時間調査」が調査票の変更を最小限にとどめてきたのは、継続性があり時系列で比較できることをこの調査の大きな特徴としているからです[4]。5年分の推移を経営会議で使っているのであれば、その比較可能性は、単年の費用差とは別の資産として扱えます

そのうえで、乗り換えに伴って一度だけ発生する費用、たとえば並行実施の実査費、過去記録の引き継ぎ、社内への説明にかかる手間を書き出し、値下がり分と並べてみると判断の材料がそろいます。仕様をそろえてもなお価格差が残る、必要なパネルの条件や体制を満たしている、現行の委託先では対応が難しい設計要件があるといった理由が見つかれば、乗り換えを選ぶ根拠になります。そうした理由が見当たらない場合は、見直した結果として現行のまま継続する、という報告の仕方もできます。どちらの結論でも、条件をそろえて比較した過程が残っていれば、社内の説明はできます。

まとめ:乗り換えを決める前に確認しておきたいこと

  • 対象者定義、地域、標本サイズ、抽出法、割付、ウェイトバックの有無、回収数の報告仕様、外部委託の有無を1枚にそろえ、各社に同じ条件で見積もりを依頼する
  • 見積もりの差が仕様の違いによるものかを項目ごとに確認し、条件をそろえたうえで、現行のまま継続する案も比較対象に入れて比べる
  • パネルの構築方法、登録時の本人確認の方法、同一人物の重複登録を防ぐ仕組み、回答データのチェック工程を、各社に同じ聞き方で確認する
  • 契約が終わる前に、過去のローデータ、調査票、集計仕様、ウェイト設計、回収記録を自社側へ移しておく
  • 乗り換えの初年度は主要指標だけでも新旧2社で並行して聞き、推移グラフには変更年の注記を残しておく

回答したエキスパートの会社:GMOリサーチ&AI

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アジア最大級、国内でも圧倒的なパネルネットワークを誇るネットリサーチの旗手。世界130カ国以上をカバーする機動力と最新技術を融合させたスピード感が強み。複雑なグローバル調査から、セルフ型でのクイックな仮説検証まで、熟練のマーケターが求める「鮮度の高い生の声」を、最適なコストと精度で確実に届ける。

出典

1 谷口将紀・井上敦・竹中勇貴「NIRA基本調査2024-サンプルに含まれるバイアスと人々の意識」NIRA総合研究開発機構(2023年・2024年調2 査/2025年3月25日公表)
3 一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会「調査マネージメント・ガイドライン 2 営業企画」 
4 一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会「調査マネージメント・ガイドライン 5 「記録」の保持と保管」 
5 渡辺洋子・吉藤昌代「メディア利用行動をどうとらえるか 2020年国民生活時間調査に向けての検討」放送研究と調査 第68巻第5号 62-72ページ(2018年) 

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