AIインタビューツールの品質はどう担保しているのか――ファストインサイト鈴木社長に聞く

AIインタビューツールの品質はどう担保しているのか――ファストインサイト鈴木社長に聞く
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海外調査のあり方を大きく変えるAIインタビューツール。急速な進化を遂げる一方で、調査の現場では「AIによるインタビューは本当に質を担保できるのか」という懸念もあるのではないでしょうか。

AIと調査の最先端を追う特集「AI×調査」の第一弾。今回は、海外調査の目的や対象をチャットするだけで、56カ国を対象に設計・リクルーティング・インタビュー・レポーティングまでAIが完結できるツール「Fast Insight」を2026年にリリースした、鈴木一成代表取締役へのインタビューです。チャットインタビューではなく音声・動画によるインタビューを採用するなど、質の向上に向き合い続ける姿勢やその仕組みを徹底取材しました。

この記事のポイント
  • Fast Insightは、最短即日でインサイトを得られる「速さ」を軸に、海外56カ国29言語のパネルとセルフサービス設計を組み合わせたAIインタビュー調査サービス
  • チャット形式のインタビューを廃止し、音声・動画によるAIモデレーターへ移行。プロのモデレーターのノウハウを反映したプロンプトで深掘りし、なりすまし検出や回答評価による品質担保の仕組みを整えている
  • 30分を超える長時間インタビューやグループインタビュー、実物に触れる調査には対応していないなど、サービスの適用範囲には限界もある
鈴木一成

鈴木 一成
ファストインサイト株式会社 代表取締役。ボストンコンサルティンググループにて消費財・小売領域の戦略立案に従事し、アパレル事業の再建、Amazon広告事業でのプロダクトマネジメントを経て、2026年にファストインサイトを創業。ハーバード大学MBA。

リサーチトレンドナビ

リサーチトレンドナビ編集部
3,500万人超のパネルデータと20年以上調査基盤を提供してきた実績に基づき、調査会社の真の強みを、客観的な数値で「中立的」に証明するコンテンツ作りをしています。編集ポリシーはこちら

海外定性調査をAIで実現するツール「Fast Insight」とは

――― 改めてFast Insightのサービスについて教えてください。

鈴木:Fast Insightは、海外調査のご要望をチャットでお伝えいただくだけで、対象者条件の設計からスクリーニング設問・インタビューガイドの作成、AIモデレーターによるインタビュー実施、レポーティングまでを一気通貫で行えるサービスです。インタビューの回答は音声・動画データで獲得でき、現在56カ国29言語のパネルに対応しています。思い立った日から最短即日でインサイトを得られる速さを強みにしています。

ファストインサイト サービス紹介資料
ファストインサイトの利用フロー

――― Fast Insightというサービス名に込めた思いは。

鈴木:「インサイトを得るために、もう待たなくていい」。そんな思いを込めています。

海外調査は実施までに時間がかかるうえ、社内予算の確保にも時間を要するため、「今回は間に合わない」という場面が少なくありません。意思決定に間に合う「速さ」を設計の条件にし、インサイト収集を思いついた日から数日で生活者の声が手元にある状態を、お客様にお届けしたいと思ったんです。

――― 「待たなくていい」という発想は、鈴木さんご自身のキャリアの中で生まれたのでしょうか。

鈴木:私はキャリアとして、日本企業の新規事業や成長戦略に関わることに興味を持って歩んできました。ボストンコンサルティンググループでコンサルタントとしてスタートして、投資会社インテグラルからの出向でアパレル企業の再建にも取り組みました。その後Amazonに入り、多種多様なプロダクトやサービスを作るいろはを学ぶためにプロダクトマネジメントに携わったんです。

振り返るとどの場面でも、生活者調査が問題の解像度を上げて、やるべきことの理解を前に進めてくれました。調査があったからこそ、進むべき道が見えた場面が何度もありました。

特にAmazonにいた頃から感じていたのは、こういう調査はもっと頻繁に、もっと手軽にできたらいいのに、という思いでした。Amazonほど顧客体験を重んじる会社でも、日々の業務に追われる中でお客様の声を聞く時間を定期的に作るのは、簡単ではありませんでした。

AIの進化によって、自分たちの手でこうしたサービスを形にできる状態になったのが見えた2025年の末ごろ、これを日本企業の皆さんに使っていただきたいと思い開発に至りました。

Fast Insightを活用する方の例

――― 実際にFast Insightは、どのような方に活用されているのでしょうか。

鈴木:大きく3つのシーンがあります。1つ目は、メーカーの皆さんによる海外展開、いわゆるアウトバウンドの調査です。たとえばタイや韓国に進出している衛生材料メーカーが、現地でどういうコンセプトやパッケージであれば選ばれるようになるのか、といった調査に使ってくださっています。

2つ目は、訪日客の理解のためのインバウンド調査。食品メーカーなどが訪日客向けの商品を企画すべきか検討するタイミングなどで、現地の方の声を聞くために活用いただいています。

3つ目は、それらの企業を支えるコンサルティング会社が、提案やプロジェクトの中でインサイトを得るために使ってくださるケースですね。

アンケートでもある程度の傾向は捉えられますが、実際に生活者の声を聞くとなると、時間や手間がかかると感じる方は少なくありません。だからこそ、もっと気軽に調査を活用していただきたいと考えています。

例えば半年に一度、「ここぞ」というタイミングで実施するのではなく、気になったら日常的に調べて、考えて、また調べる、といったライトな使い方をしてほしいですね。

AIモデレーターが現地語で深掘り

Fast Insightの強み

――― 海外調査用のAIサービスも他社から徐々に出てきましたが、Fast Insightならではの強みはどこにあるとお考えですか。

鈴木:大きくは3つあります。1つ目は海外に特化したパネルの広さです。企業からのリクエストに応じてどんどん追加していて、今では56カ国29言語、8,808万人規模※まで拡大しました。これだけ多くの国の方々に話が聞けるというのは大きな強みです。

対応国と提携パネル_56カ国8808万人

鈴木:2つ目はセルフサービスへのこだわりです。チャットで調査目的を伝えるだけで、AIが詳細を確認しながら、スクリーニング設問やインタビューガイドの作成まで行えるので、専門知識がない方でも調査を設計できます。

3つ目は、回答者1名あたり5,000円から15,000円の都度課金という価格設計です。従来の海外定性調査よりも手軽に、固定費をかけずに、必要な時に必要な分だけ実施できます。実際、先週も大手菓子メーカーのお客様とお話ししたのですが、「海外の方に気軽に調査する方法はこれまでなかったので、使ってみてすごく画期的なサービスだと思った」と言っていただけました。

※2025年・重複除去後

ファストインサイトと従来海外定性調査の違い

――― セルフサービスというのは、AIとのやり取りだけで調査設計まで組み立てられる、ということでしょうか。

鈴木:おっしゃる通りです。スクリーニングの設問の作り方や、聞きたいことをそのまま質問するのではなく回答者が答えやすい形に翻訳する部分まで含めて、なるべく自分でやりたい方はできるように意識して設計しています。

Fast Insightは本当に「質」を担保できるのか

――― サービス開始当初はチャット形式のインタビューだったと伺いました。今はどう変わったのでしょうか。

鈴木:はい、当初はチャット形式のインタビューでしたが、今は廃止して、音声・動画によるインタビューに一本化しています。チャットだと、どうしてもそっけない回答になりがちですが、インタビューで求められているのは、深い、具体的な話やストーリーですよね。音声・動画での回答にすることで、インタビューで疎かにしてはいけないポイントを担保しています。

――― モニターが音声や動画で回答するとなると、協力率が低くならないのでしょうか…?

鈴木:実は音声での回答でもチャットと比べて協力率に大差はありません。喋る行為はそれほど負担ではないようで、特段問題なく実施できています。一方、カメラを使う動画インタビューになると、確かに参加率が下がります。その場合は謝礼を少し増やしたり、事前に回答データの使い方を説明して警戒心を解くといった工夫を重ねています。

―――音声インタビューでもチャットとほとんど変わらない協力率を維持できるというのは、正直なところ意外でした。

鈴木:協力率や回答品質のために加えて力を入れているのが、音声モデルの質です。一般的なAIモデルではなく、音声に特化したモデルを使うことで本物の人間と話している感覚にかなり近づけています。たとえば英語話者でも、国や地域によって訛りが違うので、それぞれの地域に適したモデルを使用しており、もはや機械と話している感覚はほとんどないと思います。

――― とはいえ、AI任せになると回答データの質は本当に担保されるのかは正直まだ気になるところです。具体的にはどのように工夫されているのでしょうか。

鈴木:インタビューが始まった瞬間から、回答のモニタリングをするエージェントを組み込んでおり、そっけない回答が続く方には、インタビューの中で、「もう少し具体的に教えてください」などと促したり、改善が見られない場合は打ち切ることもあります。

さらに悪質なケースだと、例えば男性が30代女性のふりをするような、プロフィールを偽っている回答者もいるのですが、映像や音声があるからこそすぐに見分けがつくので、そうした場合も除外しています。

そのうえで、回答と回答の間に矛盾がないか、具体的な話が実体験に基づいているかなどをAIがチェックし、インタビュー終了後にはもう一度、回答の長さや具体性、ユニークさを評価します。評価に満たなかったものは、提供もしませんし、課金もしません。こうした様々な工夫を通じて、本当に信頼できるインサイトだけをお客様に提供できるよう力を入れています。

専門職やビジネス層向けには、400万人規模の専門職パネルと提携し、勤務先メールの検証やLinkedInとの連携で、職業の確認を経た「Fast Insight プレミアム」という新しいプランも2026年8月から用意しました。

Premium_海外B2B専門職インタビュー

――― インタビュー中にモニタリングしながら深掘りをするというのは、まさにモデレーターの仕事のようですね。

鈴木:そうなんです。AIモデレーターは、プロのモデレーターのノウハウを反映したプロンプトを毎回参照しながら、会話の流れに沿って深掘りしています。重要な質問には2〜3回深掘りする設定も可能です。裏側では、回答の質をチェックするエージェントや字幕を作成するエージェントも並行して動いていて、いろいろな役割分担で動いている状態ですね。

――― 海外インタビューならではの難しさとして、現地の暮らしや文化に合わせて設問を調整する「ローカライズ」がよく挙げられます。ローカライズは人間が取り組んでも難しい作業ですが、ここはどう対策されているのでしょうか。

鈴木:インタビューガイドの作成や翻訳の場面では、モデルを使い分けて対応しています。事前にインタビューガイドを翻訳する部分には質の高いモデルを使ったり、なるべく質の高い音声モデルで現地の方に親しまれている形式で会話できるようにしています。ただ、専門用語をきちんと翻訳・認識させる対応はまだ発展途上で、今後も試行錯誤が必要だと感じています。

Fast Insightの今後の伸びしろ

――― 一方で、まだ対応できていないケースもあると伺いました。

鈴木:明確に言えるのは、このサービスのインタビューは、モニターに隙間時間で参加してもらう形式なので、長時間にわたって聞くことには向かない、ということです。AIインタビューは30分までを目安にしています。また、参加者同士の日程調整が必要なグループインタビューにも対応していません。

それから、実際に商品に触れてもらう必要がある調査。たとえば食品を試食してもらって感想を聞く、といったケースも、現状の枠組みでは提供できていません。

――― インタビュー中にAIが自律的に「もう少し聞いた方がいい」と判断することは可能でしょうか。

鈴木:どの質問にどれくらい深掘りするかは、あらかじめ設計したうえで実施するので、アドリブで新しい質問を差し込むところまでは実装できていないのが現実です。ただ、プロのモデレーターのノウハウを受け継いでいるので、比較的自然に会話が流れたり、もっと具体的に聞きたいところでは自然に促すことは徐々にできるようになってきていると思います。

事例:Fast Insightが解決してきた課題

――― これまでにFast Insightの活用で解決できた課題があれば教えてください。

鈴木:「そもそも海外の方の話を聞けていなかった」というハードルをクリアできた例があります。あるコンサルティング会社では、アメリカのグループインタビューだと1グループあたり750万〜900万円かかり、複数グループになると1,000万円を超えてしまうので予算が確保できず、調査自体を諦めていたのですが、Fast Insightは省コストで実現できるので調査を実施できるようになりました。

また、ある食品卸会社では、当初は各国3名ずつのヒアリングから着手しましたが、「その情報量だけで結論を出してよいか」という不安が拭えず、各国男女別の計60名に対象を広げて実施しました。結果として、国ごとの違いや来店の決め手になっている情報、好まれているものなどが一定の規模感を持って分かるようになり、自信を持って先方のお客様と内容を共有できたと聞いています。

空港運営会社のお客様の例も印象的です。社内で「こうしたらいいのではないか」という意見が多く出ていたものの、実際に韓国の20代女性5人に聞いてみると、まったく違う声が返ってきたそうです。会議室に生活者の言葉がある状態で施策を考えられるようになり、今後の様々な企画が、その声を中心に進められるようになったと聞いています。

――― こうしたお客様との接点は、どのように生まれているのでしょうか。

鈴木:2026年に設立したばかりということもあり、展示会で認知拡大などを進め、お会いした方から話がつながり、導入いただくケースが中心でした。今後は、インバウンドマーケティングなども含めて、まだサービスを知らない企業にも幅広く認知を広げていきたいと考えています。

――― AIが自動でレポートやサマリーを作れるようになると、人の介在価値もまた変わってくると思いますが、まさに人を介在せず調査を届けられるサービスを出している鈴木さんから見て、これからの調査担当者はどうあるべきだとお考えですか。

鈴木:調査担当者の重要性は変わらないものの、役割は再定義されていくだろうと捉えています。プロのリサーチャーの問いの立て方や、分かったことをいかにアクションにつなげていくかというスキルは、間違いなくこれからも求められていくはずです。

たとえば海外の事例を見ると、大手テック企業のリサーチマネージャーは、これまでのようなオペレーションよりも、インサイトを語り、社内でアクションに落とし込んでいく、いわば「社内コンサル」のような役割に変わってきています。マネージャーというよりも、「リサーチアーキテクト」というような役割になっていくのだろうな、と感じているところです。

弊社としても、プロダクトの提供だけでなく、調査設計の上流工程からインサイトを届けて、アクションにつなげていけるところまでを担える会社にならなければいけないと思っています。

まとめ:Fast Insight含むAIサービスと調査の今後

――― 最後に、AIという強力なパートナーを得たマーケティングリサーチ担当者へのメッセージをお願いします。

鈴木:AIという強力なパートナーができたことで、よりレベルの高い仕事を担うことになるのだろうと思います。あらゆる作業やタスクをAIがこなすことになると、「そのアウトプットを踏まえた意思決定」や、人と人との対話(調整)、実行といった、従来より一段階上のレイヤーの仕事に取り組むことになるのでしょう。AIを使いこなす力を身につけていくことは大事な一方、人間力が大事になっていくのも事実です。この両輪を磨いていくことが、これから大切になっていくと思います。

Fast Insightについて

ファストインサイト ロゴ

56カ国29言語のパネルを持ち、チャットで調査目的を伝えるだけでスクリーニング設計からインタビュー実施までをセルフサービスで完結できます。回答者1名あたりの都度課金制を採用し、思い立った日から数日でインサイトを得られる速さを強みとしています。

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