定点調査のコスト削減のため、設計相談を生成AIでセルフ化しようか悩んでいます

定点調査のコスト削減のため、設計相談を生成AIでセルフ化しようか悩んでいます
目次

マーケターやリサーチャーの気になるお悩みにプロフェッショナルが回答する「リサーチお悩み相談室」。今回は定点調査(トラッキング調査)のコスト削減とセルフ化についてです。

回答したエキスパート
    工藤 公久
  • GMOリサーチ&AI株式会社 リサーチオペレーション部 エキスパート。製薬会社、マーケティングリサーチ会社勤務を経て2010年にGMOリサーチ株式会社(現GMOリサーチ&AI株式会社)に入社。これまでにオンライン定量調査やインタビュー調査といった従来型の調査手法以外にも、アイトラッキング調査、表情解析調査など先進的なリサーチ手法の開発・運用にも携わるなど幅広く活動してきた。

質問:予算が半分以下になる見込みで、設計の相談を生成AIに任せられないか検討中です

半年に1回、ターゲット顧客層1,000人を対象にブランド認知度や利用意向を聞く定点調査を3年間続けています。来期から、予算が今期比の半分以下まで削られる見込みとなり、これまで調査会社に委託していた設計・実査・集計を、社内で契約している生成AIツールとアンケートSaaSに切り替えて完全に内製化しようと考えています。

毎年、事業側から「新商品の認知を聞く設問を足したい」「選択肢を実態に合わせて変えたい」といった変更要望が出るたびに、調査会社と「調査票にどう反映すれば経年比較を崩さずに済むか」をすり合わせ、この作業だけで1ヶ月近くかかっています。このフローを生成AIに任せて自分たちで判断できれば、工数をかなり減らせそうです。ただ、過去3年分のデータと比較できなくなったり、集計を生成AIに任せて数字を間違えたりしないか不安があります。

回答:専門性が必要な部分は、うまく調査会社に任せましょう

市場調査の費用は、一般的に企画設計・実査(回収)・集計分析・報告書作成という工程ごとにかかります。内製化・セルフ化で減らせるのは、このうち外部に支払っていた費用の部分です。設計や分析まで内製化する場合、その工程をこれまで担っていた人の作業は社内の稼働時間、つまり人件費に置き換わることになります。

内製化・セルフ化で減らせるもの・減らせないもの

定点調査を内製化・セルフ化した場合に減らせるのは、基本的に外注費だけです。これまで調査会社が担っていた「正しく実施できているかのチェック」「集計・分析が合っているかの検算」は、内製化後もどこかで誰かが担う必要があり、それが社内の人件費として新たに発生します。しかもこれらのチェックは、経年比較の設計や集計の妥当性を正しく判断できる専門性がないとこなせません。

つまり隠れたコストには、稼働時間という「費用」の面と、それを正しくこなせるかという「専門性」の面の両方があります。ここを見落として「外注費が浮いた」とだけ捉えると、トータルでは思ったほど削減できていない、あるいは品質の低いデータで意思決定してしまう、ということが起こりえます。

すべてを内製で抱え込むのではなく、専門性が必要な部分はうまく調査会社に任せる発注の仕方を検討する価値があります。ご相談にある「毎年の変更要望をどう調査に反映するか」という調査会社とのすり合わせは、まさにその専門性が必要な工程です。専門性がないと見落としやすい落とし穴を具体的に見ていきましょう。

落とし穴①「設問文・時期をちょっと変えただけ」で経年比較が壊れる

設問文の変更による影響

内閣府の経済社会総合研究所が公表している「消費動向調査」の利用上の注意では、質問内容を変更したことで、現行の調査結果とそれ以前の調査結果が接続しなくなったことが明記されています[1]。同調査ではこの断絶に対応するため、変更前にさかのぼって指標を算出し直し、時系列としてつながる形に調整しています。国が長年続けている統計調査でさえ、設問を変えれば過去の数値との接続を保つための専門的な調整作業が必要になるということです。

実施時期による影響

実施時期についても同様の注意が必要です。総務省統計局は、家計調査を毎月実施している理由について「個人消費は、物価の変動や税制の変更などのほか、季節・天候の変化の影響も受ける」ため、継続して調査を行う必要があるとしています[2]。個人消費が季節要因の影響を受ける以上、比較のたびに実施時期がまちまちでは、季節によるものか実際の変化によるものかを区別しにくくなります。定点調査で毎回同じ時期に実施することが重要とされるのは、このためです。

調査会社に依頼する価値

調査会社に依頼する価値

調査内容の変更要望に対し調査会社とすり合わせる工程は、「変更すると経年比較にどう影響するか」を毎回確認しています。この確認を社内で肩代わりする場合、担当者には毎回相応の稼働時間が必要になり、目に見えにくい人件費として積み上がるうえ、経年比較の設計に関する専門知識がないと正しく判断できません。

逆にこの確認を省いて生成AIに設問の追加・修正だけを指示すると、設問を差し替える変更が外部の目が入らないまま積み重なりやすくなります。変更した設問のスコアは、当面は参考値として扱い、変更していない設問の推移と並べて確認しながら判断する対応が現実的です。この確認作業自体も、内製化後は社内の継続的な手間として残ります。

落とし穴②生成AIの集計は、検算のプロセスを挟まないと数字がずれることがある

ハルシネーションのリスク

集計・分析の自動化についても、精度に注意が必要です。生成AIは事実に基づかない情報をもっともらしく生成することがあり、これは「ハルシネーション」と呼ばれています。総務省の情報通信白書でも、生成AIによって顕在化したリスクとしてハルシネーションが挙げられており、ユーザーが出力内容をそのまま鵜呑みにせず確認することが望ましいとされています[3]。

集計や数値の処理も例外ではなく、生成AIは実際に計算しているとは限りません。日本マーケティング・リサーチ協会が1998年に施行したガイドラインでも、同じ調査票を複数人が別々に入力して結果を突き合わせる「ベリファイ」という作業や、論理的な誤りを機械的に発見するコンピュータチェックを行うことが基本とされています[4]。

生成AIを使うなら必ず人の目で検算

データの入力・集計手段を生成AIに置き換えても、複数の目・方法で突き合わせて確認する基本の考え方は変わりません。結果をそのまま報告に使う前に、件数や合計値が母数と一致しているかを人の目で検算する工程を挟んでおくと安心です。集計をセルフ化しても、この検算という工程はなくならず、調査会社の品質管理に含まれていた検算作業が、内製化後は自社の担当者の稼働時間に置き換わるだけです。そもそも数字のズレに気づいて正しく検算できるかどうかも、集計データの扱いに慣れているかという専門性に左右されます。

落とし穴③数字を並べるだけでは、経年データの価値は活かしきれない

定点調査は、時系列の推移そのものよりも「なぜその数値が動いたのか」を解釈し、次のアクションに落とし込むところに価値があります。数値を記録して並べるだけでは、内製化や自動化することでこの「解釈」が抜け落ちてしまうと、投資に見合った意思決定に繋がりにくくなります。自動化して浮いた時間を解釈と示唆出しに充てられるかどうかが、内製化の成否を分けると思われます。分析や解釈を担える人材を社内で継続的に確保できなければ、集計の自動化で浮いたはずの時間も使いこなせないことになりかねません。

まとめ:内製化前に見積もっておきたい「隠れたコスト」チェックリスト

  • 削減できる外注費の金額だけでなく、経年比較のチェック・集計の検算・分析にかかる社内の想定工数を時間換算して見積もる
  • 「変更が経年比較に影響しないか」を確認する担当者を、内製化前に決めておく
  • 生成AIの集計結果を検算する工程と、その所要時間をあらかじめ運用に組み込んでおく
  • チェックや検算を省略した場合に起こりうるデータ品質リスク(経年比較の断絶・誤った意思決定)も判断材料に加える
  • 経年比較の設計判断・検算・分析など専門性が必要な工程は、無理に内製化せず、部分的にでも調査会社の力を借りる選択肢を残しておく

出典

[1] 内閣府経済社会総合研究所「『消費動向調査』の利用上の注意」(2026年4月時点)
[2] 総務省統計局「家計調査に関するQ&A(回答)」(公開時期不明・常設ページ)
[3] 総務省「令和6年版情報通信白書 生成AIが抱える課題」(2024年公表)
[4] 一般社団法人日本マーケティング・リサーチ協会「調査マネージメント・ガイドライン 4集計処理加工」(1998年9月1日施行)

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