顧客ニーズを正しく把握するための方法|調査手法や成功ポイント、注意点も解説
顧客が抱える課題や本質的な欲求を解決するためには、顧客ニーズの明確な理解が必要です。顧客ニーズの把握は、顧客満足度やロイヤルティに直結し、事業成長にもつながります。
本記事では、顧客ニーズの重要性や活用法、注意点などを網羅的に解説します。顧客ニーズの調査方法や特徴も紹介しますので、ぜひ最後までお読みください。
顧客ニーズとは?
顧客ニーズの意味や考え方、理解する際に押さえておきたいポイントを解説します。
顧客ニーズの定義
顧客ニーズとは、顧客が商品やサービスに求めている本音や欲求を指します。「こうなりたい」「こうしてほしい」といった要望の理解が、課題の解決につながります。
顧客満足度やロイヤルティを向上させるには、顧客ニーズの正確な把握が欠かせません。企業が商品やサービスを展開するうえで、最初に押さえておくべき重要な概念です。
顕在ニーズと潜在ニーズ
ニーズとは、顧客が必要だと感じていることや解決したい課題を指し、大きく「顕在ニーズ」と「潜在ニーズ」の2つに分けられます。
- 顕在ニーズ:顧客が自覚しているニーズ
- 潜在ニーズ:顧客がまだ気づいていない無自覚のニーズ
マーケティングや顧客満足度などの観点で、より重要なのは「潜在ニーズ」の理解です。潜在ニーズの深掘りが、商品開発やサービス改善につながり、競合他社との差別化や優位性の向上になります。潜在ニーズは、質問や観察を通して引き出せる領域です。
心理的ニーズと身体的ニーズ
顧客ニーズには「欲求の性質」という観点から、「身体的ニーズ」と「心理的ニーズ」に分けられます。
- 身体的ニーズ:日常生活を快適に過ごすための欲求(食事・睡眠・安全などの根本的なもの)
- 心理的ニーズ:心の満足や感情・承認などの欲求(所属や自己実現などの充足)
顧客価値の設計では、機能面(身体的ニーズ)と情緒面(心理的ニーズ)の両方が重要です。利便性や機能性だけでは購買までつながらない場合もあり、安心感や満足感といった感情が意思決定を左右することも多くあります。
「ウォンツ」と「インサイト」との違い
「ウォンツ」とはニーズを満たすための手段であり、「インサイト」とは顧客の本音や行動の動機のことです。「ニーズ」と「ウォンツ」は混同されやすいですが、「ニーズ」が本質的な欲求に対し、「ウォンツ」はより具体的な欲求です。
例えば、以下のように分類できます。
- ニーズ:肌をきれいにしたい
- ウォンツ:肌をきれいにするためにスキンケア用品が欲しい
- インサイト:年齢を重ねてもきれいな肌を保ちたい
顧客理解を深めるためには、「何がしたいか(ニーズ)」、「そのために何が欲しいか(ウォンツ)」、「なぜそれを選ぶのか(インサイト)」の3段階で捉えることが重要です。
顧客ニーズを事業に活かす4つの活用シーン

顧客ニーズの活用法は、事業によって違いがあります。
- 商品・サービス開発
- マーケティング戦略・広告設計
- 営業・カスタマーサクセス
- CX(顧客体験)・サービス改善
4つの事業別に見ていきます。
商品・サービス開発
商品・サービス開発において顧客ニーズを理解することは、改善の方向性を明確にするうえで非常に有効です。
既存商品の課題や顧客の不満点から次期モデルの改良点を抽出できるほか、調査によって明らかになる「言語化されていない課題」の発見にもつながります。
改善策が明確になれば開発の方向性が的確になり、コストを考慮した開発がしやすくなり、市場での競合優位性や差別化にも効果を発揮します。
マーケティング戦略・広告設計
マーケティング戦略・広告設計では、顧客へのアプローチメッセージや広告、クリエイティブ領域の精度向上に役立ちます。
「誰に」「どんな価値を」「どんな文脈で」伝えるか明確にできるため、的確なターゲット設定で顧客の感情に刺さりやすくなります。また、顧客が商品を買う・サービスを利用するタイミングを分析すれば、効果的な販促時期の設定が可能です。
営業・カスタマーサクセス
営業・カスタマーサクセスでは、提案力の強化や信頼関係構築に利用可能です。潜在ニーズの把握ができれば、期待を上回るサービス提供が可能になり、顧客生涯価値(LTV)の最大化や良好で継続的な関係構築にも貢献します。課題を先回りして解決できる体制が整えば、「頼られるパートナー」としてのポジション形成にもつながります。
CX(顧客体験)・サービス改善
CX(顧客体験)・サービス改善では、リピート率やNPS®(Net Promoter Score®)の向上を目指す施策に活用可能です。
顧客の意図や行動からニーズを知ることで、クリック数やCVR(コンバージョン率)といった数値だけではなく顧客理解につながります。その結果、体験の質や顧客ロイヤルティの向上、サービス改善の施策実施にも結びつきます。
4つの視点で見る顧客ニーズの重要性
顧客ニーズはさまざまな視点から見ることが重要です。ここでは4つの視点から、重要性の具体的な理由を解説します。
購買行動を生む
「なぜその商品を選ぶのか」という購買行動を見極めるには、顧客ニーズの理解が欠かせません。
顧客が商品を購入する際は、「自分のニーズを満たしてくれるか」が大きな基準になります。性能が良くても、ニーズがずれていれば購買の対象にならないこともあります。ニーズを捉えることで、買いやすい価格だけではなく、感情や価値観に訴求できるマーケティングが可能です。
「自分らしい選択の応援」「時間を大切にできる」といった共感要素は、購買行動を後押しします。
顧客満足からロイヤルティ形成につながる
顧客満足度の向上には、求められている商品やサービスを提供し、顧客とのつながりを大切にしながら「生の声」を反映することが欠かせません。リピーターの獲得や口コミ・紹介の増加など、好循環が生まれることでロイヤルティの形成が進みます。継続的な関係構築は、企業の安定的な売上だけでなく、長期的な成長にも寄与します。
ファンを育て、増やす方法は「ファンマーケティングとは?企業が学ぶ実施ステップと成功事例、調査会社9選を解説」で詳しく解説していますので、ご覧ください。
開発やマーケティングの精度が上がる
顧客が抱える課題や欲求を正確につかむことは、無駄のない開発や顧客に届くマーケティングの実現に直結します。
既存商品の改善や新規企画に対する意思決定の精度が高くなり、ターゲット訴求のブレも少なくなります。方向性が明確化しているためコストの削減になり、不要な政策やリスクの軽減も可能です。
競合に埋もれない差別化戦略を描ける
顧客がどんな価値を求めているかを深く理解することが、差別化のポイントです。明確なターゲットを設定し、どんな価値をどのように提供するかまで設計すれば、比較されやすい「価格」や「機能」だけではない独自のポジションを築けます。
体験・ストーリー・わかりやすさといった要素なども選ばれる理由であり、競合他社に埋もれない戦略の一つです。
顧客ニーズを把握するための調査・分析手法5選

さまざまな調査を活用することで、顧客ニーズをより正確に把握できます。具体的な調査方法を5つ紹介します。
アンケート調査
アンケート調査は、顧客が自覚している顕在ニーズをデータとして把握する、代表的な定量調査です。購買理由・満足度・要望などを数値化し、改善点を見つけ出すのに有効です。
スピーディに結果を得られるオンライン調査や、実体験に基づく詳細なフィードバックを得られるオフライン調査などの手法があり、幅広い年齢層やさまざまな地域の人々など、多くの回答を集められます。統計的なデータに基づいた根拠ある判断ができます。
アンケート調査については「アンケート調査の種類・作り方|成功のコツやおすすめの調査会社10社も紹介」もご覧ください。
インタビュー調査
インタビュー調査は、数値だけでは見えにくい本音・潜在ニーズを掘り出せる定性調査です。デプスインタビューやグループインタビューなどの手法があり、対話を通じて深層心理や意思決定の背景を明らかにします。オンラインの実施も可能です。
一人ひとりの声を深く理解できる一方で、サンプル数が限られるため、複数の属性を対象に実施することで偏りの防止にもつながります。
インタビュー調査については下記記事で詳しく解説しています。
デプスインタビューとは?基本手法から活用事例・おすすめ企業6社比較と費用相場も
デプスインタビューのやり方・成功のコツを徹底解説
グループインタビューとは?メリット・進め方・調査会社10選をわかりやすく解説
エスノグラフィー調査
エスノグラフィー調査は、現場での視察から顧客の購買行動を明確にする調査です。無意識の行動から、潜在ニーズだけでなく、商品改良の深掘りやインサイトの発見にもつながります。顧客の無意識的な行動や習慣、言語化できない不満や期待など、数値分析では難しいニーズを見つけるのに適した手法です。
定量的なデータ分析を組み合わせる「ハイブリッド型エスノグラフィー」も注目されており、商品改良やインサイト抽出にも活用が進んでいます。
エスノグラフィー調査については、「エスノグラフィーをわかりやすく解説|方法・メリット・事例、調査会社5選も」で詳しく解説しています。
顧客満足度調査
顧客満足度調査は、顧客が商品やサービスにどれだけ満足しているかを測定する調査です。
顧客体験の結果から満足度や不足を逆算する方法で、商品やサービスを利用した後に、「満足した点」「不足に感じた点」などの顧客が抱いた感情を数値化し、改善点を発見します。リピート率やロイヤルティ向上にも効果的で、CS(顧客満足度)調査や、NPS®などが代表的な手法です。
詳しくは「顧客満足度と顧客ロイヤリティの違いとは?具体的な顧客満足度調査の手法とおすすめ調査会社5選」で解説しています。
テキストマイニング
テキストマイニングは、テキストから数値だけではわからない満足や不安の理由を抽出できる手法です。アンケートやSNS投稿などの文章データを、単語・フレーズ単位に分解し、出現頻度や関連性を分析して顧客の本音やトレンドを把握できます。膨大なデータを短時間で分析できるため、定性データの活用効率を高められる点も特徴です。
テキストマイニングについては「テキストマイニングのやり方と活用事例|おすすめツール7選と調査会社3社も」も併せてご覧ください。
顧客ニーズを正しく活用する4つのポイント
顧客ニーズの活用に必要な4つのポイントを紹介します。
- 顧客視点での価値提案を設計する
- 定量×定性のデータを組み合わせる
- 社内共有で意思決定に活かす
- 改善を継続する仕組みをつくる
一つひとつ見ていきます。
顧客視点での価値提案を設計する
顧客ニーズを満たすためには、「企業が売りたい価値」ではなく、「顧客が求める価値」で商品やサービスを設計する必要があります。顧客が本当に求めている課題を理解せず提供しても、購入や利用にはつながりません。
顧客が求める価値を出発点とし、それが満たされる商品やサービスを提供する開発が重要です。例えば求められている商品が「高性能」か「使いやすさ」かによって、訴求ポイントは大きく変わります。大切なのは、顧客の理想像に寄り添い、満足と共感を生む価値提案です。
定量×定性のデータを組み合わせる
調査は「定量」か「定性」かだけではなく、両方を組み合わせて行うことでより確度の高いデータが得られます。
- 定量調査:アンケートなどで数値化できるデータを収集、傾向やパターンを把握
- 定性調査:インタビューや観察で顧客の本音や潜在ニーズを深掘り
顧客ニーズの把握には、定量と定性の両方が必要です。多種多様な調査データからは、精度の高いターゲティングが可能になります。
社内共有で意思決定に活かす
分析した顧客ニーズの情報は、開発・営業・マーケティングなど部門を横断し社内全体で共有することで、意思決定のスピードと精度を向上させます。社内共通の顧客理解は、組織として一貫性のある戦略のために重要です。顧客理解が共通していれば偏った議論になりにくく、納得感の高い判断ができます。
施策の判断スピードが上がれば、社内全体の意識が向上し、経営層は経営戦略に活かすことも可能です。
改善を継続する仕組みをつくる
顧客ニーズは、市場環境やトレンド、ライフスタイルによって常に変化します。一度ニーズを把握しても、更新しないままだと顧客離れになりかねません。
長期的な関係を築くためには、顧客からのフィードバックを収集・分析・改善する仕組みが重要です。継続的な改善が、よりニーズを満たす商品・サービス作りになり、リピート率やロイヤルティ向上になります。変化する顧客ニーズへの対応継続が、選ばれ続ける企業へとつながります。
顧客ニーズを活用する際の注意点・落とし穴
顧客データの把握は、顧客の課題を解決する商品やサービス展開に不可欠ですが、誤った使い方をしないよう注意が必要です。
表面的なデータだけで判断しない
アンケートなどの定量データは、顧客の評価を数値で把握できる一方で、表面化した事実しか見えず、「なぜそう感じたのか」までは読み取れません。
数値だけを根拠に進めると、本質的な課題を見逃したり的外れな施策を実施してしまったりする可能性があります。顧客の行動・発言・感情を深掘りできる定性調査を組み合わせることで、明確な顧客ニーズを得られます。
社内での解釈のズレに注意する
顧客ニーズの情報は、部署や担当者によって解釈が異なると、施策がバラバラになり、期待した成果につながりません。
顧客の声やデータを共通の指標・言語として社内全体で共有することが重要です。営業・開発・マーケティングなど、各部門が「顧客が本当に求めているもの」を同じ基準で理解できれば、一貫性のある戦略立案が可能となります。顧客ニーズを社内共通の判断軸にすることで、ブレのない顧客体験を提供できます。
顧客の声を“正解”と捉えすぎない
顧客の生の声は価値ある情報ですが、要望をそのまま形にするだけでは、競合と似た方向に進んでしまう可能性があります。
大切なのは、顧客が本当に求めている本質的なニーズを見極め、自社ならではの強みを掛け合わせることです。期待を超える独自価値の提供が、競争優位を生む鍵となります。
市場の変化を踏まえて顧客ニーズを見極める
顧客ニーズは重要ですが、市場環境や社会変化によって生まれる新しい需要も見落としてはなりません。
例えば、コロナ禍で急速に広がった「非接触型サービス」や「サブスクリプションモデル」の需要は、顧客の声だけでは想定しづらい変化でした。社会情勢の影響やテクノロジーの変化、業界トレンドなど、市場の変化と顧客ニーズの両方を捉える視点が必要です。
まとめ|顧客ニーズを満たして事業を成長させる
顧客ニーズは、商品・サービスの開発や既存商品の改善だけでなく、営業・マーケティング・CXなど幅広い領域で活用できる重要な基盤です。
社内の共通認識とし、顧客ニーズに合わせて改善を続ければ、顧客満足度やロイヤルティの向上につながります。さらに、自社の個性をかけ合わせることで、競合他社との差別化も実現できます。
顧客ニーズの把握には、アンケートやインタビュー、テキストマイニングなど複数の調査手法を組み合わせることが有効です。定期的な顧客ニーズの調査と商品・サービスのブラッシュアップが、事業の成長につながります。